こんにちは、ユカです。
その2はこちらから。
目次
2016.2.15 テヘラン前編
宝石博物館
自己嫌悪モードのまま朝を迎える。
20時ころ寝たはずなのに、グダグダとベッドから出られず昼を迎える。
今日はトルクメニスタン大使館にビザを取りに行く予定だった。イランを抜けたあとはトルクメ、ウズベク、タジクへ行こうと思っていた。
トルクメニスタン大使館の開館時間は午前中のみというのは知っていた。
でもどうしても起きられず、気乗りしなくて、まあ明日でいいや、と思い諦める。
これは旅行だ。無理することもないはずなのに、自分で決めた予定をこなせなかった事に対して、ほんのりとした罪悪感が湧き上がる。
昼過ぎになった。ベッドに横たわっているのにも飽きて、やっと着替える。
地球の歩き方に載っていた、少しだけ興味を惹かれた宝石博物館というところに行ってみることにする。キラキラしたものを見るのは好き。好きなことをして無理矢理にでもテンションを上げたかった。
宝石博物館は銀行と同じ建物にあるようだった。セキュリティチェックを受け手荷物を全て預ける。
分厚い扉を通り抜けると、物凄い数の宝石が現れる。指輪やネックレスだけでない。光り輝く大きな宝石で作られた玉座、王冠、剣、地球儀...。
歩くたびに、石の輝きが揺らめく。うん、きれい。すごい数...。
カラフルなキラキラした石をぼんやりと見て回る。
館内は広くはなく、すぐに見終わってしまいそうだ。最初こそ圧倒されたが、その輝きにも揺らめきにも5分で慣れてしまった。綺麗だなあという以上の感想を抱けない。
...全部でいくらなんだろう、今強盗が入ってきたらどうしよう。
...あ、中国人集団。どこにでもいるな。全身グッチだ。この人たちこの宝石も買えちゃうのかな。
...重そうな指輪だな、これつけたままじゃ料理できないな。
どうしようもないことをとりとめもなく考える。
やっぱりその価値がわからない人間が行っても、見て感じること以上の感想を抱けないなあと思った。
私は同じ理由で遺跡や美術館や博物館にもあまり行かない。歴史に疎く、価値がわからないから。
後輩に、遺跡巡りが大好き、という男の子がいる。彼に、何がそんなに楽しいの?と尋ねたことがある。
「なんか、例えばパルテノン神殿に行って、ソクラテスが2000年以上前にここにいた、ここに座って同じ景色を見ていたかもしれない、と思うとものすごく興奮するんですよね」
彼は嬉しそうに答えてくれた。彼の専攻は古代ローマ史だった。
なるほどな、なんかいいなと思った。私もそういう風に感動してみたい。
映画のロケ地巡りが好きな人いるでしょ、それと同じですよ、と彼は説明してくれた。
彼の話を聞いた後も、私はやっぱり歴史に熱心になれないでいた。
観光地に行って、感動することをモチベーションにして勉強することができないのだ。彼のように歴史好きな人が現地に行って感動するのはよくわかるが、感動したいがために勉強するというのは本末転倒な感じがしてしまう。言い訳なのだけれど。
それでもなぜ私は懲りずに美術館や博物館に行くのだろう?
たぶん、興味を持てるのではないかという自分に対する淡い期待、「そこ行った事ある」と言いたいため、あとは暇つぶし。
しょうもないけど、突き詰めるとたぶんそんなところだ。
怪しさMAXイラン人ガイドと遭遇
せめて世界史の教科書でも持ってきてたら楽しかったのかなあ、などとぼんやり考えながら博物館を後にし、メトロの駅に向かって歩く。
自己嫌悪は消えないけれど、少しだけ気が晴れた。無理矢理にでも身体を動かすのは有効だ。地球の歩き方を眺め、次はホメイニー廟に行こうと思った。
博物館から10分ほど歩く。もうすぐ駅というところで、満面の笑みでHey!と手を振る男が近付いてくる。
え?
明らかに、こちらに向かって、歩いてくる。私の目を見ながら、嬉しそうに笑ってやってくる。
私の目の前で立ち止まった彼は手を差し出す。
訳も分からず私も手を握り返す。条件反射に近い。
誰だっけこの人?久しぶり!とでも言うように握手をしているけれど、私のテヘランでの知り合いは、昨日泊めてもらったあの富豪の一家だけだ。
「イランへようこそ!日本人?ひとり?観光?」握った手をブンブン振りながら彼が問う。
「う、うん。日本人だよ」
私の答えに満足気に頷きながら彼は続ける。「僕ね、ガイドやってるんだ。どこ行くの?」
知り合いではなかった。となると、怪しすぎる。
海外での現地人の自称ガイドは無視すべき、というバックパッカーの不文律に従って、あーうん、大丈夫、と素っ気なく答えてメトロの駅に進む。
勝手にガイドを始めて、去り際にガイド料として大金を要求するやつに違いない、と思った。観光地でしか存在しないと思っていたけれど、こんな何もない街中で現れるとは。
早歩きで立ち去る私を、慌てたように彼は後ろから追いかける。「ごめんね、急に。僕日本人と喋ってみたくて。もしよかったらどこか行くなら案内させてもらえないかな」
「ありがとう。でもひとりで行きたいの。バイバイ」できるだけ迷惑そうな顔をして、ため息混じりに答え、早足でメトロの階段を降りる。
めんどくさいなあ。悪い人ではなさそうだったけれど、イラン、意外とこういうの多いのかな。観光客が多いわけじゃないから大丈夫かと勝手に思っていたけれど。
メトロの駅に着き、ホメイニー廟までのルートを地球の歩き方と切符売り場の地図を見比べながら確認する。後ろからまた声がした。
「ホメイニー廟に行くの?それならこっちだよ!」
振り向くと、やっぱりさっきの彼がいた。ニコニコと笑っている。これに乗って、ここで乗り換えだよ。切符ある?行こう!こっち!
必死に、でも嬉しそうに勝手に案内を始める彼に、なんだか笑ってしまった。なんでこんなに明るいんだこの人は?
あんなに嫌そうな顔をしたのに、伝わっていないのか?
もしくは日本人で一人旅する女の私がものすごくいいカモに見えている?
どっちでもいいや。ものすごく強引だけど、嫌な感じがあまりしない。不思議な人だ。
メトロは人目も多いし大丈夫だろう。暗くなる前に帰ればいいや。
「OK。ありがとう。一緒に来てもいいけれど、私お金ないからね。ガイド代払えないよ」
あ〜そういうんじゃないからいいのいいの!と大きく手を横に振る彼。怪しまれていたのはわかっていたようだ。
メトロに乗り込み並んで座るとすぐに彼は身分証を私に見せた。プラスチックでラミネートされたチープなカードだ。英語でGuide Certificationと大きく書かれ、会社のようなエンブレムと、英語とペルシャ語で住所が印刷されている。本物のガイドの証明書なのかもしれないけれど、いくらでも偽造できそうなクオリティ。
まあいいや。もうメトロに乗っちゃったし、暇だし、おもしろそう。今日はこの人と過ごしてみよう。わかったよ、ガイドさんなんだね。と適当に答える。
私のあっさりとした相槌に不満だったのか、彼はFacebookを開き今までのお客さんだよ、見て見てと画面を私の顔に近づける。これはね、中国人の女の子、ドイツ人のカップル、このフランス人は4回もイランに来たんだ、友達だよ。楽しそうにエピソードを披露してくれた。なるほど確かに多くの外国人観光客を案内していたのは本当みたい。ガイドの証明書とFacebookの名前も一致している。Altinという名らしい。
ひとしきり顧客との思い出を語り終えた後、思い出したかのように今日はプライベートだからノーマネーだよ!と慌てて言う。
そんなことある?もし本当だったらものすごくいい人だけど。お金は絶対に払わないぞ、と決意する。
ふんふん、と聞き流しているうちに最寄駅に着いた。少し歩くとホメイニー廟のようなものが見える。
長くなりそうなので、この日は2記事に分けて書きます。
後編はこちらから。
読んでいただき、ありがとうございました。